紅葉シーズンの箱根は、大変な混雑でした。
強羅駅から箱根登山鉄道のケーブルカーに乗り、中強羅駅で降りたときのこと。
「どちらのドアからでも降りられます」と車内放送があり、私達のグループも、適当に何人かに分かれて左右のドアから降りました。
ケーブルの軋む音とともに、ケーブルカーが早雲山に向かって去って行ったあと、降りたホームに残された人々の目が点になりました。
「え?渡れないの?」
ホームの周囲を見渡すと、周りにはどこにも踏切も、ましてや歩道橋もありません。
降りたホームから、反対側に渡ることができないのです。
「宿はあっちなんだけど」
「一人だけ向こうに降りちゃったけど、どうすればいいの?」
人々がざわつきます。
いったいどうやって、線路の向こう側に渡ればいいのでしょうか。
ホームは結構な高さがあり、線路に降りるのは危険です。
みんなの頭にはてなマークが飛び交います。
そのうち、誰かが立て看板を見つけました。
「ケーブルカーは、両側のホームから乗降できます
線路は渡らずに、こちらのホームでお待ちください
向こう側においでの方は
ケーブルカーの到着を待ち、車内をお通りください」
と書いてあります。
「ええ〜!なにそれ!」
「いまどき、こんなのあり?」
次のケーブルカーが来るまで20分。
ひたすら待つしかないようです。
そういえば、旅館の板前さんも、向こう側の街に渡って移動するところらしく、ホームの階段の下で、ふつうに待っています。
地元の人でさえ、こうやって渡るしか方法がないってことですね。
21世紀にして、すばらしくのどかなシステムです。
「急いでいるわけじゃないし、滅多にできない経験だから、まあいいか」
ここまで、悪びれずに看板に書かれていると、怒る気にもなれません。
ようやくケーブルカーが到着しました。
相変わらず混んでいる車内の人に
「すみません。渡るだけですので、通してください」
と皆で声をかけます。
車内の人たちにも、はてなマークが飛び交います。
旅先の人々には、おもしろい経験で済むものの、地元の人たちから、なんのクレームもなく、みんなおとなしくがまんしているのでしょうか?
夜になったらどうするんだろう。終電(?)がすぎたら線路を渡るのかな...と、やはり、はてなマークが残ります。
ちなみに、ウィキペディアによると、他の駅にはアンダークロスする通路があるが、この駅には存在しない、と書かれています。
せめて車内に案内を表示するとか、アナウンスすればいいのに、と思うのですが、アナウンスしたところで、間違ったほうに降りてしまったときは、どちらにしても渡れないので、まあいいか、ということになっているのかもしれません。